■免震建築の課題 2 -公共免震建築をどう設計するか-

阪神大震災を経験して、病院や庁舎といった公共建築物にも免震構造が採用され始めました。平成 8年 8月までに評定済みの病院は13棟あり、その中には公立病院が 4棟含まれています。また庁舎に該当する公共建築も 6棟あります。総数約 300棟の中ではまだ少数ですが、公共建築物にこそ免震構造を採用すべきだという自治体の積極的取り組みが全国的に拡がりつつあるようです。

1.公共免震建築の設計方式

公共施設の設計は免震建築でも、ゼネコンを対象とした設計施工一括発注方式と設計・施工を分離した発注方式に分かれますが、公共施設としては後者が一般的と言えるでしょう。
免震構法・免震装置にはいくつかの方式があるため競争入札を建て前とする公共工事では、設計において免震装置の特定を避けたいという発注者の意向が出されることがあります。そのための設計方法としては、次の3とおりが考えられます。
 1.性能のみを指定し、装置は決めない。
 2.複数の装置を対象に複数とおりの設計を行う。
 3.その建物に相応しい装置を特定し設計する。

2.各設計方式の比較

上記1.2の方式は、例えば免震装置の復元力特性をバイリニアと仮定し、支持荷重、降伏荷重や降伏後剛性とその許容誤差範囲などを指定し、この性能を満足すれば免震装置は何でもよいとするものです。発注形態としては自由度の高い方法ですが、これでは最も肝心な免震装置を設計しておらず、実際には個々に異なる免震装置の特性を無視し、何でもかんでもバイリニアという設計レベルを広めることになります。
それではと、それぞれの装置を対象として複数とおりの設計を行う方式が2です。これは実際には採用しない何通りもの設計を行い、税金を無駄使いすることになります。如何に丁寧な設計を行ったとしても、免震装置を特定しない限りやはり設計が完結したとは言えません。この柱は鉄骨でもRCでも木造でも構いませんというようなものです。主要な構造部材が決定されていない設計に対するセンター評定や大臣認定もおかしなものです。

3.装置未特定方式の最大の問題点

上記1.2の装置を特定しない方式は、免震建築にとって更に大きな致命的欠陥を有しています。
免震建物の安全性能が装置の変形能力如何であることは本シリーズで何度も強調したとおりです。Vmax= 50cm/s程度の入力に対して安全であるのは免震構造として当然です。現実にはVmax=100cm/s前後の地震動が少なからず観測されており、万一そのような厳しい地震動に遭遇した場合(特にその変形)にも充分対応できるかどうかが免震建築として最も重要な課題です。
装置を特定せず、「指定仕様のみを満足すればどのような装置でも良い」という発注形態をとった場合、あとはコスト勝負となります。免震装置のコストは、出来るだけ径が小さく、ゴム層が薄いほど安いことになりますが、そのような装置ほど変形能力が小さいことは当然です。コスト勝負の発注方式では、安全余裕度の最も低い装置ばかりが選定され設計の表には現れていない最も肝心な安全性能を切り捨ててしまう方法だと言わざるを得ません。

4.公共免震建築の設計のありかた

優れた公共免震建築を実現するためには、上記の方式が必須です。建物の特性や設計条件を熟知している設計者が、その建物に最も相応しい免震装置を設計すべきです。免震装置は免震建築の中で最も重要な構造部材です。それを特定しないのは設計行為の放棄であり、それができなければ設計者の資格なしです。
建物全体の工事金額からみれば、免震装置の費用はごく一部です。今後は装置の製造メーカーも増え、海外からの参入も考えられます。装置の特定はメーカー指定とは次元の異なる問題です。競争入札の建て前に捕らわれて最も大切な安全性を切り捨てるとすれば、「何のための免震構造採用だったのか」ということになります。
免震建築の安全性は設計次第であり、それは発注者と設計者の考え次第です。優れた公共免震建築が全国津々浦々に実現され、来るべき震災時にはその威力が遺憾なく発揮されることを願ってやみません。