■免震建物の地震時性能 ― 直下型地震に遭った免震病院 ―

免震構造の目標は「大地震に対して建物もその中身も共に無損傷で守る」ことです。実際の地震でこの目標が達成された成功例はあるのでしょうか。
1994年1月17日未明、米国サンフェルナンドバレーに発生したノースリッヂ地震は、マグニチュードM=6.7と地震としては中規模でしたが、一瞬にして7千名以上の負傷者が発生しました。この非常事態下「在来耐震構造の病院」は病院機能を喪失し、「免震構造病院」は無損傷でその使命を全うするという対照的な事態が発生しました。

1.地震動の強さ

ロサンゼルス中心部での地動の最大加速度は0.25G〜0.50G程度に達し、より震源に近いサンフェルナンドバレー地区の地盤上(震央距離 7km)で水平1.82G、鉛直1.18G が、オリーブビュー病院(震央距離15km)の敷地地盤上で水平 0.91G、鉛直0.60Gの加速度が記録されています。(CSMIP Report)

2.その時、「在来耐震構造病院」では

オリーブビュー病院は、1971年のサンフェルナンド地震で大被害を受け倒壊したため、敷地を移して10年後に建て替えられました。耐震壁を病院印の十時型に配置した6階建て病院で、1階での水平最大加速度
0.82G が入力され、屋上階の最大加速度は "2.31G"にも達しました。構造躯体はこの1G以上の地震力によく耐え、耐震壁に亀裂が発生した程度で倒壊を免れました。しかし、内部の医療機器や家具類が転倒し、カルテ等の書類が落下飛散した上に、スプリンクラー配管が破断して全階水浸しとなり、建物は使用不能、全館退避となりました。
同病院では、同日午後7時までに入院患者 300名全員を他施設に移送し、地震発生から 3日目の 1月19日41時間後に入院治療業務を一部再開します。但しこの間、屋外での応急治療サービスだけはずっと継続して行われています。

3.その時、「免震構造病院」では

ロサンゼルス・ダウンタウンの北東約 5Kmの位置に、USCメディカルセンターという大学病院の一大医療センターがあります。その中に「USC免震病院」と言う当時世界で唯一の 8階建て免震病院がありました。 敷地表面で 0.49G、免震装置直下で 0.37Gの水平最大加速度を受けましたが、建物の最大加速度は屋上で0.21G、1〜7Fではわずかに0.10G〜0.15Gと、免震効果がみごとに発揮されました。
病棟内には高さ6〜8フィートの棚が並んでいますが、本震及びその後の余震でも花瓶やボトルなど何一つ落下せず、また、机の上のOA機器類やその他の機器の異常も皆無で、完全に無被害・無損傷で病院機能が維持されました。
地震発生の午前 4時31分、同病棟では緊急脳外科手術が行われようとしていました。正にメスが入れられようとした時、地震が発生。緩やかな揺れが一分足らずでおさまるのを待って手術は直ちに着手され、滞りなく手術は終了した(D.R.Edens氏 USC Hospital)ということです。
なお、延べ床面積 3万mのこの建物は、鉛プラグ入り積層ゴム(LRB)68体及び積層ゴム(RB)81体、計149体の免震装置に支えられています。
この免震病棟に隣接する 4階建て薬剤棟では多くの薬品ビンの落下事故が発生。また入院治療主病棟の一翼は余震で損傷が拡大し一時閉鎖され、同センター内における「在来耐震構造」建物の被害総額は $350mil(約385億円・当時) に達したと報告されています。